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July 29, 2008

Fate/Zero(フェイト/ゼロ)/1〜4巻/感想/虚淵玄

 「違う。ボクは――あの人の臣下だ」(ウェイバー・ベルベット)

 『Fate/Zero(フェイト/ゼロ)』1〜4巻(完結)のネタバレ感想です。『Fate/stay night』本編のネタバレも含む点をご注意下さい。

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 まぎれもなくFateであった!(イスカンダル口調で)

 文体や雰囲気を虚淵さんが限界まで奈須さんのFateっぽくしてるであろう心遣いもそうですが、何よりもこの作品がFateなのは、ライダーとウェイバーの物語を大きな軸として導入しているから、というのが僕の感想。

 『Fate/stay night』本編のキモって、「その瞬間の出会いが、一生を照らし続けることもある」じゃないですか。

 総括ルートの桜ルートを除いて、一組のマスターとサーヴァントのそういう関係を描いているのが『Fate/stay night』だと思うのですよ(だから『Fate』っていう作品タイトルが僕は非常にしっくり来ている)。

 セイバールートの士郎とセイバー、凛ルートの凛とアーチャー、どちらも出会ってお互い成長して、お別れして終わりなんだけど(そこに恋愛要素も含む)、お別れは終わりじゃなくて、その出会いは士郎と凛のその後を一生照らしていく……というのがものすごく美しい訳で。結ばれることもなかったけれど、失恋ではない。時空を超えて士郎とセイバーも、凛とアーチャーも確かな何かを共有している。そんな恋愛資本主義(by本田透)ではありえない恋愛の形がひたすら神々しい訳で。

 で、『Fate/Zero』ですが、その『stay night』から続く「その瞬間の出会いが、一生を照らし続けることもある」を継承してるのは、明らかにウェイバー&ライダーですよね。

 もう、最後の「生きろ、ウェイバー」の所は、明らかに「シロウ、貴方を愛してる」(セイバールート)と 「大丈夫だよ遠坂、俺も頑張るから」(凛ルート)に重なる訳ですよ。最後の最後に相手の呼び方に別のニュアンスが加わってる所とか、そういう細かい所も含めて。

 なもので、エンディングのライダーがいなくなった後の時間を生きているウェイバーのくだりは、もう脳内で「移りゆく季節」が流れながら読んでいました。セイバールート&凛ルートのエンディングにあった余韻と同じですよ。大事な人とお別れしたけれど、その人との出会いはこれから一生自分を照らしていくという。

 ゆえに、この作品の最終戦はウェイバーVSアーチャーと認定。

 衛宮切嗣VS言峰綺麗と捉えるのは普通過ぎで、通はライダーが消滅した後のアーチャーとウェイバーの問答こそを最終戦と捉えたい所。

 「違う。ボクは――あの人の臣下だ」(ウェイバー・ベルベット)

 いいですねー。

 生き残るという、ただそれだけの勝利。作中でギルガメッシュに勝利したのは実はウェイバーのみ。あの短いページで綴られる最終戦に、最弱VS最強というもの凄い燃えがありました。あのギルガメッシュに気を変えさせた、というか自分のあり方を認めさせたという(ウェイバーは歪んだ形で自分を認めて貰いたい、過剰な承認欲求を持ったキャラとして最初は出てくる)、まぎれもない勝利。ライダーとウェイバーの愛の勝利です(笑)。

 ◇

 まあ真面目に衛宮切嗣の物語としても感想書いてみる訳ですが、もう、『Fate/stay night』本編への見事なパスを演出するのに徹したという感じですね。

 切嗣の追った『stay night』で士郎が継ぐことになる理想の果てに何があるのか。桜ルートで士郎に突きつけられる『stay night』中最重要選択肢が、『Zero』の中で切嗣にも突きつけられます。大事な人を殺してみんなを守るか、みんなを殺しても大事な人を守るか。

 で、聖杯(というかアンリマユ)が見せた幻想の中とはいえ、切嗣はイリヤもアイリスフィールも殺す方を選ぶのね。この「理想」にまつわる別な選択肢を垣間見ることができるのは、桜ルートで士郎がみんなを殺しても桜を守るという選択をする所まで待たないといけないという。

 で、切嗣はイリヤもアイリも殺して理想を追ってしまったからこそ、イリヤは自分を選んで欲しかった想いもあって、だからこそ桜ルートのラストでは桜を守ると選んだ士郎を生かすために、代わりにイリヤが自ら犠牲になるのだと思うのね。

 桜ルートで、イリヤが、

 「士郎だって判ってるでしょ?ぜんぶを選ぶことはできない。助けられるのは一人だけなんだって」(イリヤスフィール)

 と語る訳ですが、その台詞と、ラストのイリヤのシーンに繋がるもの凄い背景を、虚淵さんは『Zero』で作りあげてくれたという感じですね。

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 最後にセイバーさん大好きな人としては、挫折というか、打ちのめされ続けるセイバーさんが面白かったです。あとYAMAHAのV-MAXをノリノリで乗り回すセイバーさんとか面白かったです。

 結局『Zero』時点では、セイバーさんは切嗣のあり方を理解することもできず、過去改変という自らの願いの歪さにも気付くことができず(イスカンダルが指摘はしてくれるんだけどね)。

 切嗣のあり方を、それを継ぐ士郎を通して理解するのは『stay night』まで待たねばならず、過去改変という願いの歪さと、自分が追った理想の誇りを取り戻すのも、『stay night』のセイバールートの教会での士郎の告白を目撃するシーンまで待たねばならないという。

 それにしてもいじめ抜かれるセイバーさんが面白かった(笑)

 ◇

 という訳で全体として大変面白かったです。中毒性のある筆致と異様なリーダビリティの高さで、読みふけってしまいました。特に3巻後半からラストまでの盛り上がりの凄さにページを捲る手がとまらず、半分徹夜して読んだというのも久々の体験。『Fate』ファンは必読の書だと思います。


Fate/Zero Vol.1 -第四次聖杯戦争秘話- (書籍)
Fate/Zero Vol.2 -王たちの狂宴- (書籍)
Fate/Zero Vol.3 -散りゆく者たち- (書籍)
Fate/Zero Vol.4 -煉獄の炎- (書籍)

Fate/Zero material (書籍)

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realtanua at 06:16│ TYPE-MOON雑記